🏠 スタグフレーション前夜に家計がやるべき3つの備え ― 日銀利上げの本当の狙いと対策
🧭 はじめに:「景気が悪いのに利上げ?」という違和感
最近、ニュースで「日銀が年内にも追加利上げへ」といった見出しをよく見かけるようになりました。しかし、私たちの生活実感は「物価は上がっているのに、給料はそれほど増えない」「景気が良くなった感じがしない」というものではないでしょうか。
この“違和感”は自然です。なぜなら、教科書的には「景気が加熱しすぎているとき」に利上げが行われるのが普通だからです。ところが、今の日銀は「景気が絶好調ではない」中で利上げを検討している。これは一体なぜなのか? そして、そのことは私たち家計にどんな意味を持つのでしょうか。
この記事では、日銀が利上げに踏み切ろうとしている「本当の理由」と、スタグフレーション(景気停滞×物価上昇)のリスクが高まる中で家計が今から備えるべき3つの戦略を整理します。
📉 なぜ今、利上げが検討されているのか?
まず整理しておきたいのは、日銀は「景気が絶好調だから利上げする」とは言っていないということです。
むしろ彼らはこう考えています:
「今はまだ本格的なスタグフレーションではない。しかし、このまま“超低金利”を続ければ、日本は“抜け出せないスタグフレーション”に陥るかもしれない」
つまり日銀の利上げは、景気が強いからではなく、「この先を守るための一手」としての色合いが強いのです。その背景を理解するには、「なぜ今“利上げできる”と判断しているのか」を知る必要があります。
📈 日銀が「利上げ可能」と判断している5つの理由
かつては「利上げしたら景気が壊れる」とされてきた日本経済ですが、2025年の今、それが変わりつつあります。日銀が「今ならできる」と考えている根拠は次の5点です。
① 賃金上昇が“構造的”に起き始めた
2025年春闘では、大企業で5.4%前後(妥結額1万7,700円程度)という回答が報告され、前年を上回る水準を実現しました。中小企業でも正社員の賃上げ率は約4.0%・額1万1,000円前後という調査結果が出ており、規模を問わず賃上げの裾野が広がっています。
有効求人倍率は1.3倍前後と人手不足が慢性化しており、賃金上昇圧力は一時的ではなく構造的なものになりつつあります。
→ 賃金が着実に上がるなら、多少の利上げをしても景気が腰折れしにくいと判断できるわけです。
② 物価上昇が“一時的”ではなくなった
コアCPI(生鮮食品除く消費者物価指数)は30か月以上連続で2%超を維持。さらに「トリム平均」など基調的な物価指標も2%近辺で安定しています。
以前は「エネルギーや輸入価格の一時的な上昇」でしたが、今はサービス価格や賃金連動型の値上げも進み、国内要因でのインフレ構造が生まれています。
③ 景気と企業の“地力”が増している
実質GDPは年率 +1%前後で推移し、企業の経常利益は過去最高水準。設備投資や雇用も堅調で、多少の金利上昇にも耐えられる地力が日本経済に出てきました。
④ 金融緩和の“副作用”が大きくなっている
超低金利政策を長年続けた結果、副作用も無視できなくなっています:
- 国債市場の流動性が低下し、市場機能が歪む
- 銀行や年金の収益性が低下
- 不動産・株式などの資産価格が過熱
- 円安進行で輸入物価が上昇し、生活コストが膨らむ
→ 「緩和が経済を刺激する」から、「緩和がむしろ経済の健全性を損なう」という逆転が起きつつあります。
⑤ 円安と通貨信認のリスクが無視できない
米金利が5.25%前後に対し、日本は0.50%。この金利差5%が円売りを誘発し、150円台の円安が定着。輸入物価を通じて生活コストを押し上げています。
→ 通貨価値の信認を守るためにも、日銀は「日本も正常化へ向かっている」というメッセージを発する必要があります。
🧨 日銀が恐れているのは「今のまま放置すること」
現時点ではまだ景気はプラス成長、賃金は名目で上昇中であり、「景気後退×物価高」という本格的なスタグフレーションではありません。
しかし、放置すれば以下のような“負の連鎖”が起きると日銀は考えています:
- 円安放置 → 輸入インフレ → 実質賃金マイナスの固定化
- 消費縮小 → 成長鈍化 → 投資減少
- 「低成長×高コスト」の日本が固定化
その最悪のシナリオを未然に防ぐ「予防的な正常化」こそが、今回の利上げの真意なのです。
🏠 家計が今から取るべき3つの戦略
この「スタグフレーション前夜」の状況で、私たち家計が取るべき対応は「金利が上がる未来を前提に動くこと」です。ここでは3つの柱を紹介します。
① 住宅ローン戦略:「上がる前提」でキャッシュフローを設計
- 繰上げ返済用の“現金バッファ”を残す – いざという時に対応できる余力を確保
- 固定化のタイミングを見極める – ローン後半だけ固定金利に切り替えるなどミックス戦略も有効
- 返済の前倒しは「家計余力を増やす手段」として使う
② 投資戦略:「金利上昇でお金の価値が変わる」を前提に
- 短期資金は金利恩恵を受ける形へ – 定期預金・MMF・国債などでキャッシュにも収益性を
- 株式は“金利に強い企業”へシフト – 高配当・低負債・価格転嫁力のある企業が有利
- 通貨・インフレ分散を取り入れる – 金やコモディティ、外貨資産でリスクヘッジ
③ 支出戦略:「実質所得が減る」前提で暮らしを見直す
- 固定費の“物価連動リスク”を洗い出す – 電気代・通信費・保険など将来値上がりしやすい支出を把握
- 固定費を“価値基準”で選び直す – 惰性ではなく「必要な支出だけ残す」
- 節約ではなく“構造変化対応”へ – 太陽光や副収入など値上げに強い仕組みを導入
📌 まとめ:「利上げを恐れず、前提として暮らしを組み直す」
日銀の利上げは、「景気が好調だから引き締める」という従来型のものではありません。むしろ、「このままでは“低成長×高コスト”の日本が固定化する」という危機感からの“予防的な正常化”です。
だからこそ、家計も「金利が上がるかもしれない」を恐れるのではなく、「上がる前提で備える」意識に切り替える必要があります。
- 🏠 ローンは“上がっても耐えられる”設計へ
- 📈 投資は“金利で価値が変わる”前提で見直す
- 💰 支出は“実質所得減”を見越した構造改革を
スタグフレーションが本格化するかどうかは、まだ誰にも分かりません。しかし、なる前から動いていた家計と、なってから慌てる家計の差は、5年後・10年後に圧倒的な開きとなって現れます。
いまはまさに、「利上げを恐れる側」から「利上げを使いこなす側」に回るチャンスです。
次回以降の記事では、「利上げ局面における住宅ローンの最適化戦略」をさらに深掘りし、変動・固定・繰上げ返済の判断基準について詳しく解説していきます。

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