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なぜ金利を上げても円高にならないのか? ― 名目金利差では見えない“実質金利”の本質

なぜ金利を上げても円高にならないのか? ― 名目金利差では見えない“実質金利”の本質

🧭 はじめに:「利上げ=円高」の常識が崩れている

かつて為替相場の世界では「利上げすれば通貨高」というのが常識でした。特に日本では「日米金利差」が円相場を決定する最大要因とされ、金融ニュースでも繰り返し語られてきました。

ところが近年は、日銀が利上げしても円高にならないどころか、円安が続いています。なぜ「利上げ=円高」という公式が機能しなくなっているのでしょうか?

この記事では、名目金利差だけでは説明できない「実質金利」の視点を中心に、今の為替市場を読み解きます。さらに、円安定着が私たち家計に与える影響と備えについても整理します。

📊 従来のロジック:名目金利差と為替の関係

教科書的な為替の説明はシンプルです。

  • 日米金利差が拡大 → 円売り・ドル買い → 円安
  • 日米金利差が縮小 → 円買い・ドル売り → 円高

たとえばアメリカが利上げ、日本が据え置きならドルの金利が高くなり、ドルに資金が流れます。逆に日本が利上げすれば円に資金が戻る、というのがこれまでの定説でした。

しかし実際の相場では、日銀がマイナス金利を解除し、さらに追加利上げを検討しているにもかかわらず、円安が止まりません。このギャップを説明するには、もう一段深い「実質金利」の視点が必要です。

📉 実質金利こそが為替を動かす

名目金利が上がっても、その国の通貨が必ずしも買われるわけではありません。重要なのは、インフレ率を差し引いた「実質金利」です。

実質金利の基本式

実質金利 = 名目金利 − インフレ率

アメリカの場合、政策金利は5%超ですが、インフレ率は3%程度まで低下。つまり実質金利は+2%前後とプラス圏です。通貨を持つだけで購買力が維持・増加するため、ドルは買われやすいのです。

一方の日本は、名目金利が0.5%程度にとどまり、インフレ率は3%前後。実質金利はマイナス域に沈んでいます。つまり「円を持っているだけで購買力が減っていく」状態です。

投資家の視点:実質金利がプラス/マイナスで何が変わるか

実質金利がプラスの国では、投資家はその通貨を保有するだけで価値が維持されるため、資金が流入します。例えば米国の短期国債に投資すれば、インフレを差し引いても実質的に利回りが得られる計算になります。

逆に実質金利がマイナスの国では、通貨の価値が時間とともに目減りしていくため、投資家はその国の通貨を避ける傾向があります。円で資金を保有してもインフレで購買力が削られるため、ドルやユーロ、あるいはゴールドなどインフレに強い資産に移す方が合理的です。

実際、海外の機関投資家が日本株や日本国債よりも米国債を好むのは、この実質金利差が背景にあります。日本の債券を保有しても、為替をヘッジした瞬間に実質リターンがマイナスになるためです。

つまり投資家にとって「どの通貨を保有するか」は、名目金利よりも実質的に購買力を維持できるかどうかで決まるのです。

⚖️ 「利上げしても円高にならない」理由の具体例

  • アメリカ: 高金利かつインフレ沈静化 → 実質金利がプラス → ドルに資金流入
  • 日本: 低金利かつインフレ継続 → 実質金利がマイナス → 円売りが続く

つまり、単に「金利を上げたかどうか」ではなく、「金利からインフレを引いた実質的な利回り」が投資家にとって重要なのです。

日銀が0.25%や0.5%利上げしても、インフレ率3%の世界では焼け石に水。為替市場はそのことを冷徹に織り込んでいます。

🌍 為替を左右するその他の要因

もちろん、為替は金利差だけで決まるものではありません。いくつかの重要な要素があります。

① 財政赤字と国債残高

日本はGDP比で世界最大級の政府債務を抱えています。市場参加者は「金利を上げても返済可能か?」という視点で日本国債や円を評価します。

② 通貨の信認

ドルは基軸通貨として国際取引や準備通貨に使われていますが、円はシェアが限定的。通貨の「使われやすさ」そのものが価値に直結しています。

③ 地政学リスクと資金の逃避先

有事の際に「どの通貨が買われるか」も重要です。伝統的には円がリスク回避先でしたが、近年はドルやスイスフランの方が優先される傾向が強まっています。

🏠 家計にとっての円安定着の意味

では、こうした「利上げしても円高にならない」状況は、私たちの暮らしにどんな影響を与えるのでしょうか?

① 物価上昇が続く

円安は輸入コストを押し上げ、エネルギー・食料・日用品の価格に直結します。給料の伸び以上に物価が上がれば、家計は実質的に苦しくなります。

② 外貨建て支出の負担増

海外旅行や留学費用、外貨建ての学費や投資コストは円安で大きく膨らみます。グローバルに活動する家庭ほど影響が大きいでしょう。

③ 資産防衛には分散が必要

円安・インフレに備えるには、円資産だけに頼らず、外貨建て資産やインフレ耐性のある資産(ゴールド・株式・不動産)を組み合わせる必要があります。

📌 まとめ:「実質金利」と「通貨信認」を見る時代へ

「利上げすれば円高」という常識は、実質金利がマイナスの日本では通用しません。為替を決めるのは、名目金利差ではなく「購買力を守れるかどうか」という実質的な利回りと通貨信認なのです。

家計にできることは次の3つです:

  • インフレを見越して「円安定着」を前提に支出計画を立てる
  • 外貨やインフレ資産で資産分散を図る
  • 旅行・教育費など外貨建て支出は為替リスクを意識する

金利だけを見ていては為替は読めない時代。 家計もまた、「実質金利」と「通貨信認」の視点を取り入れ、円が弱い時代を生き抜く戦略を備える必要があります。

次回の記事では「2055年の日本と金利 ― 超低金利からの転換が社会をどう変えるか」をテーマに、未来予測の観点から掘り下げていきます。

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この記事を書いた人

ちゃきん(茶金)
理系サラリーマン投資家。
住宅ローンや不動産投資など合計2億円の借金を抱えながらも、株式・仮想通貨・太陽光発電など幅広く挑戦。
子育てと家計管理をリアルに発信し、「お金と暮らしの最適解」を実験しています。

Xはこちら → @chachakin_blog

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